私たちが「歯の病気」と聞いてまず思い浮かべるのは、むし歯や歯周病による痛み、あるいは歯を失うことかもしれません。口腔内のトラブルは、食事や会話といった日常生活の質に直結するからです。
しかし近年では、さらに一歩踏み込んで歯の病気と健康寿命や死亡リスクとの関連が注目されています。
日本では「80歳で20本以上の歯を保つ」という目標が掲げられていますが、実際にこれを達成している人は約5割にとどまると報告されています。
歯の本数が少なくなると、十分に噛むことが難しくなり、食事内容が偏りやすくなります。その結果、低栄養や筋力低下につながり、要介護状態やフレイルのリスクが高まることが指摘されています。
また、歯周病や歯の喪失と死亡率との関連を調べた研究も多く行われています。複数の追跡調査では、歯周病を有する人や歯を多く失っている人は、そうでない人に比べて全死亡率が高い傾向を示すことが報告されています。
たとえば、歯がほとんど残っていない高齢者では、歯のある人に比べて死亡リスクが高いという結果も示されています。
歯周病と全身の健康との関係については、近年多くの研究が行われています。
歯周病が進むと歯ぐきに炎症が起こり、その影響が体全体に及ぶ可能性があると考えられています。
一方で、糖尿病などの全身の病気があると、歯周病が悪化しやすくなることも知られています。
このように、歯周病と全身の病気は、一方通行ではなく、お互いに影響し合っている可能性があると考えられています。
ただし、現時点では歯周病とこれらの病気や死亡との間には関連が報告されているものの、因果関係が明確に証明されているわけではありません。
こうしたことを踏まえると、歯の健康を保つことは、口の中だけの問題ではないと言えます。
毎日の歯磨きや歯周病予防を意識した口腔ケア、定期的な歯科受診は、歯を守るためだけでなく、将来の健康を考えるうえでも大切な習慣です。日頃から口の中の状態に気を配ることが、長く健康に過ごすための第一歩になることでしょう